大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成12年(行ス)5号 決定

主文

原決定を取り消す。

千葉地方裁判所平成一一年(行ウ)第五三号裁決取消等請求事件の被告長生郡市広域市町村圏組合を被告長生郡市広域市町村圏組合管理者に変更することを許可する。

理由

第一抗告の趣旨及び当事者の主張

一  抗告の趣旨

主文同旨

二  当事者の主張

抗告人の抗告の理由は、別紙(一)「抗告の理由」に記載のとおりであり、相手方の主張は、別紙(二)「抗告人の主張に対する反論」に記載のとおりである。

第二当裁判所の判断

一  本件記録によると、次の事実が認められる。

1  抗告人は、昭和六三年四月一日、特別地方公共団体(一部事務組合)たる相手方長生郡市広域市町村圏組合(以下「相手方組合」という。)に採用され、相手方組合の経営する公立長生病院で技術吏員として勤務し、平成九年三月当時同病院の診療部栄養科主任であったが、同年四月一日、相手方組合管理者から、「相手方組合事務吏員に任命する総務課主査に補する」との転任処分(以下「本件処分」という。)を受けた。

そこで、抗告人は、同年五月二七日、本案事件の相被告である千葉県市町村公平委員会に対し、本件処分に係る審査請求をしたところ、同委員会は、平成一一年五月一二日、本件処分を承認する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした。

抗告人は、抗告人代理人弁護士らを訴訟代理人として、同年七月二一日、千葉地方裁判所に対し、当事者の表示欄に「被告長生郡市広域市町村圏組合右代表者管理者A」と記載した訴状を提出して、千葉県市町村公平委員会及び相手方組合を被告とする本件裁決及び本件処分の取消しを求める訴えを提起した(平成一一年(行ウ)第五三号裁決取消等請求事件。以下「本件訴訟」という。)。

2  本件処分の辞令書の発令年月日および任命権者欄には「平成九年四月一日長生郡市広域市町村圏組合管理者A」と記載されている。また本件裁決の裁決書の当事者欄には、「処分者 長生郡市広域市町村圏組合管理者A」と記載され、主文には、「長生郡市広域市町村圏組合管理者A(以下「処分者」という。)が、平成九年四月一日付けで行った不服申立人B(以下「申立人」という。)に対する転任処分を承認する。」と記載されている。

二  右の事実に、以下の検討するところをあわせると、本件訴訟のうち本件処分の取消しを求める部分(以下「本件取消訴訟」という。)について被告とすべき者は、相手方組合ではなく、長生郡市広域市町村圏組合管理者であると認められる。

1  相手方組合は、平成六年法律第四八号による改正前の地方自治法(以下「法」という。)第二八四条第一項に基づき、昭和四六年四月一日付けで千葉県知事の許可を受けて設置された特別地方公共団体であり(同法第一条の二第一項、第三項)、茂原市ほか五町一村で組織されている(長生郡市広域市町村圏組合規約(以下「組合規約」という。)第二条)。

2  法第二八七条第一項第六号には、一部事務組合の規約には、組合の執行機関の組織及び選任の方法についての規定を設けなければならない旨規定されているところ、これを受けて、相手方組合においては、組合規約第九条第一項に、管理者等を置く旨が定められ、同規約第一〇条第一項には、「管理者は、組合を統轄し、これを代表するとともに組合事務を管理し及び執行する」旨定められている。

3  法第二九二条には、「地方公共団体の組合については、法律又はこれに基づく政令に特別の定めがあるものを除くほか、・・・・・・市及び特別区の加入するもので都道府県の加入しないものにあっては市に関する規定・・・・・・を準用する」旨規定されている。

組合規約第一一条第一項、第二項には、「組合に事務局を置く。事務局に吏員その他の職員を置き管理者がこれを任免する」旨規定されているところ公立長生病院は、長生郡市広域市町村圏組合病院事業の設置等に関する条例に基づき設置されたものであり、相手方組合の事務局とは別個の組織を有する事業体であるから、組合規約第一一条第二項の規定は同病院には適用されないというべきであるが、右条例には同病院の職員の任免に関する定めがない。

そうすると、公立長生病院の職員については、法第二九二条及び地方公務員法第六条の趣旨に照らし、市における市長の地位に当たる長生郡市広域市町村圏組合管理者が、その任免権限を有するものと解するのが相当である。

4  したがって、本件取消訴訟について被告適格を有するのは、長生郡市広域市町村圏組合管理者であるということになる。

三  そこで、抗告人が本件取消訴訟において被告とすべき者を誤ったことが行政事件訴訟法第一五条第一項にいう「故意又は重大な過失」によるものであるかどうかについて検討する。

本件取消訴訟において被告とすべき者が長生郡市広域市町村圏組合管理者であることは、前記辞令書及び裁決書の記載を検討すれば容易に判明する事柄であるといい得るけれども、公立長生病院の職員の任免権者が右管理者であることは、前記のような関係行政法令の複雑な解釈を経て初めて判明するものであり(組合規約第一一条第二項の適用があるとした原決定の判断には誤りがある。)、相手方組合が裁判上もあまり例をみない団体であることとも相まって一般にそうした事実が知られているとはいい難いばかりでなく、本件記録によると、本件訴状の送達を受けた相手方組合は、平成一一年一〇月二八日、千葉地方裁判所に対し、「長生郡市広域市町村圏組合訴訟代理人弁護士」名義で作成された同年一一月五日付け答弁書を提出し、その中で請求棄却の裁判を求める旨の答弁と、相手方組合が本件処分をしたとの原告主張事実を認める旨の認否をしていた(この答弁書は同年一一月五日の第一回口頭弁論期日において陳述された。なお、相手方組合が同裁判所に提出した訴訟委任状には、受任者の表示として、「長生郡市広域市町村圏組合管理者A」と記載されている。)が、同年一一月一日、同裁判所に対し、相手方組合には被告適格がないことを理由に、相手方組合に対する訴えを却下するとの裁判を求める本案前の申立てをするに至ったことが認められるところ、相手方組合が右本案前の申立てをするに至ったについては、本件処分は相手方組合ではなく任命権者たる組合管理者によってなされたものである旨を指摘した相被告千葉県市町村公平委員会の答弁書の記載がその契機となったものと推認されることに照らすと、相手方組合の訴訟代理人においても、本件取消訴訟において被告とすべき者について誤解を生じるほどその判断が容易でなかったことが窺われるのである。

そうすると、被告変更の申立てを許可することなく、本件取消訴訟について被告を誤った不適法な訴えであるとして却下することの不利益を抗告人に負わしめてもやむを得ないと判断されるほどの著しい注意義務違反が原告訴訟代理人弁護士らにあったとまで認めることはできないというべきであり、したがって、本件取消訴訟において被告とすべき者を誤ったことについて重大な過失があったとは認められない。

四  以上のとおり、抗告人は、本件取消訴訟において故意又は重大な過失によらないで被告とすべき者を誤ったというべきであるから、行政事件訴訟法第一五条第一項により、本件取消訴訟の被告を長生郡市広域市町村圏組合から長生郡市広域市町村圏組合管理者に変更することを許可するのが相当である。

よって、原決定を取り消すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 魚住庸夫 裁判官 小野田禮宏 裁判官 貝阿彌誠)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例